高血圧対策に「全肺呼吸」

腹式呼吸と胸式呼吸を交互に行うと、肺で強力な降圧物質が作られ、高血圧が改善します。 この呼吸法のことを『全肺呼吸』といいます。


■深呼吸

深い呼吸をすると血圧はたちまち降下

緊張したりイライラしたりすると、誰でも血圧が上がります。 しかし、そんなときに深い呼吸をすると、血圧はたちまち下がります。 このように深呼吸をすれば血圧が下がることを、医師は日常の臨床で経験的に知っています。 これは、自律神経のうちの副交感神経(体がリラックスしているときに働く神経)が優位になって、心身がリラックスするからです。 しかし、それだけではありません。深呼吸をすると、肺では血圧を強力に下げる物質が作られるのです。 この物質は「プロスタグランジンT2」といいます。 私たちは、呼吸によって酸素を取り入れ、体内で発生した二酸化炭素を排出しています。 この酸素と二酸化炭素の交換(ガス交換)は、肺にある肺胞という小さな袋状の組織で行われます。 肺胞は直径0.3〜0.5ミリぐらいで、健康な成人では、左右の肺を合わせて約3億個もあります。 空気を吸うと開いて、周囲を取り巻く毛細血管に酸素を供給します。 同時に静脈から二酸化炭素を受け取り、呼気から排出します。 このガス交換のときに、肺胞の壁からプロスタグランジンT2が作られ、血液中に放出されるのです。

私たちは、緊張したり興奮したりしたときに「カテコールアミン」というホルモンが分泌されます。 これは、心臓からの血液の拍出量を増やし、動脈を収縮させて、血圧上げる物質です。 プロスタグランジンT2は、そのカテコールアミンの分泌を抑制し、血管を拡張して血圧を下げてくれます。 その他にも、血小板の凝固を抑えて血栓を防いだり、血液中の脂質が血管の内壁に染み込むのを防いだりして、 動脈硬化を防ぐ働きもあります。
原発性肺高血圧症という難病がありますが、その治療薬としてプロスタグランジンT2は使われています。 私たちは、呼吸をするだけでその薬を作り、高血圧や動脈硬化を防いでいるのです。


■全肺呼吸

指先の血流も改善する

息を吸って酸素を取り込むと肺胞が膨らみ、肺胞の壁に圧力がかかるほど、プロスタグランジンT2はたくさん産生されます。 しかし、私たちはふだん、肺胞すべてを使っているわけではありません。 肺の下の方は重力の影響で血液がたまり、それが肺胞を圧迫して開きにくくしています。 また、うつむき加減でいたり、姿勢が悪かったりすると、上の方の肺が圧迫されて肺胞が開きにくくなります。 したがって平均すると、肺胞は7〜8割しか使われていません。 しかし無意識の呼吸では肺胞が十分膨らまず、プロスタグランジンT2の産生効率は、極めて悪いのです。 そこで、勧められるのが「全肺呼吸」です。 この呼吸法は、平たく言うと、腹式呼吸と胸式呼吸を交互に行うというものです。 全肺呼吸をしていると、肺胞が十分に使われ、軽症の高血圧なら薬なしで血圧が正常域になります。 また、薬を飲んでいる人でも、血圧が下がって薬を減らすことができます。

例を挙げてみましょう。
患者さんの一人、Aさん(50歳代・男性)は、最大血圧が145ミリ前後、最小血圧が90ミリ前後と高めだったので、 全肺呼吸をやってもらい、朝起きたときと夜寝る前に血圧を測ってノートにつけてもらいました。 半年ほど続けたところ、Aさんの血圧は最大血圧が130ミリ、最小血圧が80ミリと、基準値内で安定するようになりました。
薬が必要な人には、全肺呼吸をやってもらいながら、夕食後に一番軽い降圧剤を飲んでもらいます。 すると、翌日の朝の血圧は正常値となり、一日よい状態で血圧をコントロールできます。 患者さんの中には、診察室に入ると緊張するのか、脈拍が速くなる人がいます。 でも、この呼吸を5〜6回すると、1分間に90くらいあった脈拍が、すぐに60〜70に戻ります。 また、指先の動脈の酸素量が92〜93%と少ない人でも、95%以上の正常値に上がります。 このように、全肺呼吸で血圧や血流が改善する例は、枚挙にいとまがありません。